「揉んでも揉んでも、また固くなる」
「ストレッチを毎日しているのに、変わらない」
「気合を入れて運動しても、コリだけは取れない」
スタジオで多くの方が、この種の疲労感を抱えていらっしゃいます。努力しているのに変化しない——いちばん心が折れる状態かもしれません。
実は、その背景には「身体のどこが硬くなっているか」の認識のズレがあることが多いんです。今日は、私が施術を考えるときによく使う「みかんとネット」という比喩を使って、このズレについてお話してみます。
ネットに入った、複数のみかん
スーパーで売っている、ネットに入ったみかんを思い浮かべてみてください。
ネットの中に何個かのみかんが入っていて、ネットがそれをまとめている——あのイメージです。
このネットを軽く握って、中のみかんを動かそうとしたとき、もし動きが悪いとしたら、原因は二つに分けて考えられます。
- みかんそのものが硬くなっている(個々が動きにくい)
- ネットが硬くなっていて、みかんが中で動けない(包んでいる側の問題)
人の身体も、これとよく似た構造をしています。
- 「みかん」= 個々の筋肉
- 「ネット」= 筋肉を包み、つなぐ筋膜
身体が硬い、動きが悪い——そう感じるとき、その原因がみかん側(筋肉)にあるのか、ネット側(筋膜)にあるのか、まず分けて考える必要があります。
多くの場合、問題は「ネット」のほう
ここから本題です。
慢性的な硬さ・コリ・動きの悪さ——こうした症状の背景にある原因は、個々の筋肉そのものが硬くなっているというより、それらを包んでいる筋膜のネットワークが滑らなくなっていることが多いんです。
筋膜は、筋肉と筋肉のあいだ、層と層のあいだで滑り合うように働いています。この滑りが落ちると:
- 隣り合う筋肉同士が連動できなくなる
- 一つの筋肉だけが頑張ることになり、過負荷で固くなる
- その隣の筋肉は使われずに弱る
- 全体としての協調性が失われる
つまり、「個別の筋肉を揉んでもまた固くなる」のは、ほぐした筋肉そのものは問題ではなく、ネット(筋膜)の状態が変わっていないから——という見方ができるんです。
『ファッシアシステム』の記事でお話したように、筋膜は身体全体を包む一枚のネットワークです。だから、ネットの一部に偏りが生じると、その影響は周囲の広い範囲に波及していきます。
どこから手をつけるか——「みかんの皮を剥く」順序
ネットの状態を整える、と言っても、どこから手をつければいいのか。
ここでもう一つ、みかんの比喩を使わせてください。
みかんの皮を剥くとき、私たちはどこから剥き始めるでしょうか?
たいていの人は、ヘタの裏側から剥き始めます。皮の真ん中をいきなり引き裂こうとはしません。なぜなら、ヘタの裏は皮が全体とつながっている結節点で、ここから剥き始めると、自然と全体に剥がれが広がっていくからです。
逆に、皮の真ん中を強く引っ張っても、なかなか剥けません。むしろ皮が破れたり、果肉まで傷ついたりする。
身体への施術も、これと同じです。
- いちばん硬く感じる場所 = 結果として張力が集まっている「行き止まり」
- そこから直接、力ずくで攻める = 皮の真ん中を引き裂くのと同じ
- 広く全身につながっている結節点から整える = ヘタの裏から剥き始める順序
「いちばん硬いところから揉む」のは、直感的には正しそうに見えて、実はいちばん変化が出にくい順序なんです。
いろんな方向の筋膜が「重なってくる」場所
この「ヘタの裏」に当たる場所が、身体のどこにあるか。
全身の筋膜は、ただ縦に走っているわけではなく、いろんな方向から伸びてきたラインが重なり合う場所があります。たとえば:
- 鎖骨の下あたり——首・胸・腕の筋膜が重なってくる場所
- 腰骨の上のあたり——背中の大きな膜と、お腹の側面、お尻の筋膜が重なってくる場所
- 脚の付け根(鼠径部)——お腹の深層、太もも、骨盤底の筋膜が重なってくる場所
ここでもう一つ、思い出していただきたい話があります。『ファッシアシステム』の記事で紹介した側方力伝達(EMFT)——筋肉の力は腱を介した直線方向だけでなく、横方向にも筋膜を通じて広がっていく、という仕組みです(Huijing, 2009)。
ということは、筋膜が重なっている場所に触れると、その刺激が縦にも横にも、多方向に広がっていく。一つの場所への介入が、複数のラインに同時に届く——これが、筋膜的な施術が時に「思いがけない場所が楽になる」という現象を生む理由です。
「肩こりが気になるのに、鎖骨の下を触られた」「腰が痛いと言ったのに、脇腹を触られた」——筋膜的な施術で「あれ?」と思われることがあるとしたら、こうした重なりの場所を経由して、全体に変化を届けようとしているからかもしれません。
これまでの記事の「根っこ」にある考え方
ここまでの話は、これまでの記事のほとんど全部の根っこにあります。
- 『腰痛』で書いた「全体から局所へ」も
- 『頭痛・首こり・めまい』で書いた「下から、上へ」も
- 『膝の痛み』で書いた「上下から整えてから膝へ」も
- 『足のはなし』で書いた「足から全身へのつながり」も
全部、みかんの個々ではなく、それを包むネットの状態を整える——という同じ発想から来ています。
そして『バイオテンセグリティ』で書いたように、身体はネットの張力のなかで形を保っている構造体です。だから、ネットを整えることは、骨や関節そのものを動かす以前の、もっと土台の作業なんです。
「揉んでも戻る」が、減っていく
筋膜のネット全体が整い始めると、不思議なことが起こります。
「いちばん辛かった場所」を直接揉まなくても、その場所の張りが、ふっと抜けていく。あるいは、施術後しばらく経ってから、「あれ、そういえばあの痛み、出なくなったな」と気づく。
これは、個々のみかんを攻めずに、ネット全体を整えたから起きていることです。一時的な圧迫やほぐしによる「効いた感」ではなく、ネットの張力配置そのものが変わったから、戻りにくい変化として残るんです。
こんな方に
- マッサージで揉んでもらってもすぐ戻る、と感じている方
- 「ここをほぐして」と言ったのに、別の場所を触られて戸惑った経験がある方
- 部分のケアではなく、身体全体の張力を一度整え直してみたい方
初回カウンセリングは無料です。今のお身体の「ネット」がどんな状態か、一緒に見ていきましょう。