「筋膜って、筋肉を包んでいる薄い膜のことですよね?」

スタジオでよくいただく質問です。半分、正解。でも実は、ここ十数年の研究で、筋膜のイメージは大きく塗り替わってきています。

今日は、私が施術をしていて一番大切にしている「筋膜は一枚のネットワーク」という視点について、お話してみます。これが分かると、「なんで腰が痛いのに足を触るの?」「肩こりなのにお腹を整えるの?」——そんな施術の不思議が、するすると腑に落ちるはずです。

「筋膜」には、二つの意味がある

実は、「筋膜」という言葉には現在、二通りの使い方があることが研究者の間で整理されています。Fascia Research Society(国際的な筋膜研究の学会)は、次のように定義しています(Adstrum et al., 2017)。

  • A fascia(個別の筋膜):筋肉や内臓を包んだり、仕切ったりしている、解剖で取り出せる一枚一枚のシート。学校で習う「筋肉を包む膜」はこちらです。
  • The fascial system(筋膜系・ファッシアシステム):身体の中を三次元的に貫く、連続したネットワーク全体。脂肪組織、靭帯、関節包、腱、腱鞘、神経や血管の鞘、内臓を支える膜、筋肉の内側を細かく仕切る組織までを含みます。

私が施術で対象にしているのは、後者です。身体の中に張り巡らされている一枚の組織として、筋膜を捉えています。

全身がつながっている、というのはどういうことか

「全身が筋膜でつながっている」と聞くと、「ホースみたいなものが通っているのかな」と想像されるかもしれません。実際はもう少し立体的で、身体じゅうに浸透している網のような構造です。

たとえば、皮膚のすぐ下から始まって、筋肉と筋肉のあいだを通り、骨に張り付き、関節を包み、内臓を吊り下げ、神経や血管に鞘のように寄り添う——こうした組織のすべてが、解剖学的にはひと続きの結合組織で構成されています。

切れ目がないので、ある場所の張り具合は、思いがけないほど遠い場所に影響を及ぼします。脚の内側の硬さが首の動きに響いたり、お腹の奥の縮みが肩の上がりにくさにつながったり。「ここからここまで」という境界が、見た目ほど身体の中にはないということです。

力は「直線」だけでは伝わらない——側方力伝達という発見

ファッシアシステムが面白いのは、ただの「つなぎ役」ではなく、力を分配する装置として働いている点です。

これまで、筋肉の力は「筋肉 → 腱 → 骨」と一直線に伝わる、と説明されてきました。でも近年の研究では、筋肉が生み出した力の一部は、隣の筋肉や周りの膜にも横方向(側方)に伝わることが分かってきています。これを側方力伝達(EMFT)と呼びます(Huijing, 2009)。

これは何を意味するか。

  • ある筋肉が頑張ると、その負担は隣接する筋肉や膜にも分配される
  • だから、酷使した場所の真隣ではなく、少し離れた場所に疲労やコリが出ることがある
  • 逆に、遠い場所をゆるめると、頑張っていた筋肉の負担が自然に減ることがある

「腰が痛いから腰を揉む」「肩が凝るから肩を揉む」——直線的な発想だと、なかなか変化が続きません。でも力がネットワーク状に流れていると捉えると、「どこを触ると、どこが楽になるか」という地図が大きく変わってきます。

なぜ、不調の場所と原因の場所はずれるのか

ここで、これまでの記事でお話ししてきたことが、すべてつながってきます。

筋膜リリースとは何かでは、「強く押すほど効く」が合理的でない理由を、神経系の反応からお話ししました。腰痛と身体のつながりでは、腰痛の背景に「腰の外で起きていること」がよくある、というお話をしました。

これらの背景にあるのが、ファッシアシステムが一枚の連続体であるという事実です。

  • 痛みが出ている場所は、ネットワーク全体の張力が集まる行き止まり
  • 行き止まりだけを揉んでも、流れの上流が変わらなければまた同じ状態に戻る
  • 「全体から、局所へ」整える順序が大切なのは、身体がそういう設計になっているから

「不調の場所」と「原因の場所」がずれて見えるのは、決して不思議なことではありません。もともと一枚でつながっているものを、私たちが頭の中で「部位」に分けて考えているから、ずれて見えるだけ——そう捉えると、視界がずいぶん広くなります。

体感としての「つながり」

理屈の話ばかりが続きました。最後に、施術を受けてくださる方の体感の話を少しだけ。

スタジオで筋膜への施術を受けていただくと、こんな反応をよくいただきます。

  • 足の裏をゆっくり触れていたら、首の付け根が自然にゆるんできた
  • お腹の奥を整えたあと、腰の重さがするすると抜けていった
  • 腕の付け根に触れていたら、呼吸が深くなった

不思議に聞こえるかもしれませんが、これらはすべて、ファッシアシステムが一枚でつながっているから起きる現象です。膜を通じて張力の偏りがほどけると、触れていない場所まで連動して変化していくんです。

「身体って、思っていた以上にひとつだったんだな」——施術後にそんなふうに言ってくださる方が、私はとても好きです。

こんな方に

  • 局所を揉んでも変化が続かない、と感じている方
  • 「ここが悪い」と言われ続けてきたけれど、本当にそれだけだろうか、と感じている方
  • 身体を「全体」として一度ゆっくり整えてみたい方

初回カウンセリングは無料です。今のお身体の状態をお聞きしたうえで、ファッシアシステム全体を見渡しながら、最適なアプローチをご提案します。

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