人の身体の中で、骨はどんなふうに配置されているか——そんなふうに考えたことはありますか?
学校で習った骨格モデルを思い浮かべると、たいていは「骨が積み木のように積み重なっていて、関節で組み合わさっている」というイメージだと思います。背骨も、足の骨も、首の骨も——下から順番に重なって、上を支えている。
でも、現代の構造理論では、この見方は実際の身体の振る舞いを十分に説明できないことが分かってきています。今日は、私が施術の根っこに置いているバイオテンセグリティという考え方について、お話してみます。
骨と骨は、実は触れ合っていない
まず、ちょっと驚くような事実から。
人の関節を細かく見ると、骨と骨のあいだには関節腔(かんせつくう)という空間があります。関節包に包まれて、滑液という液体で満たされていて、骨同士は直接ぶつかっていないんです。
つまり、「骨が積み重なって支え合っている」——という直感的なイメージは、解剖学的には正確ではありません。骨と骨はあくまで隙間を保ったまま並んでいるだけで、その隙間が潰れずに保たれているのは、別の何かのおかげなんです。
では、何が骨を支えているのか
その「別の何か」が、筋・筋膜のネットワークです。
身体じゅうに張り巡らされた筋膜の連続体が、まるで全身を包む立体的なメッシュのように働いて、骨を張力のなかに位置づけている——これが現代の構造理解です。
ちょっと不思議な感じがするかもしれません。でも、こう言い換えると分かりやすいかもしれません:
- 骨は「圧縮を受け持つ部品」
- 筋膜は「張力を受け持つ部品」
- 二つが調和して働くから、身体は形を保てる
骨だけでも、筋膜だけでも、人は立つことができません。両者がつねに引っ張り合いながらバランスを取っている——その動的な釣り合いの中に、私たちの身体は浮かんでいるんです。
「積み木」と「テント」——身近なもので考えてみる
ちょっとイメージしやすいように、身近なもので例えてみます。
積み木のタワーを想像してください。一番下のブロックが、上に重なるすべての重さを引き受けます。横から押されたら、ぐらりと倒れる。重さは一直線に下へ伝わり、各ブロックは「上から押される力」だけで配置を保っている——これが圧縮中心の構造です。
次に、テントを思い浮かべてみてください。中央のポールが立っているのは、四方に張られたロープのおかげです。ポールが下から上に押し上げる力、ロープが外側から内側に引っ張る力、その両方が同時に働くから、テントは自立する。ポールだけ立ててもダメ、ロープだけ張ってもダメ。両者の引き合いの中に、テントは「浮かんで」いるんです。
人の身体は、積み木よりも、はるかにテントに近い構造をしています。
- ポール = 骨(圧縮材)
- ロープ = 筋膜・筋(張力材)
これがバイオテンセグリティの、いちばんシンプルなイメージです。
バイオテンセグリティという考え方
この構造原理に名前を与えたのが、Graham Scarrをはじめとする研究者たちです。彼らは身体の構造を「バイオテンセグリティ」と呼びました(Scarr, 2018; Levin & Martin, 2012)。
「テンセグリティ」とは、彫刻家ケネス・スネルソンや建築家バックミンスター・フラーが提唱した構造形式で、連続した張力材(ロープなど)のなかに、圧縮材(棒など)が宙に浮かぶように配置された構造を指します。棒同士は直接触れていないのに、ロープの張力で全体が安定する——そんな構造です。
これを生体に当てはめると:
- 張力材 = 筋肉と筋膜のネットワーク
- 圧縮材 = 骨、筋腹、組織内の水分
身体は、骨を一段ずつ積み上げた「積み木」ではなく、筋膜の張力のなかに骨が浮かんでいるバイオテンセグリティ構造体——そう捉え直すことができるんです。
なぜ「浮いている」と都合がいいのか
積み木構造と比べて、テンセグリティ構造には大きな利点があります。
1. 衝撃が分散される
積み木は、上から力をかけると一直線に下まで伝わります。一番下の部品に最大の負担が集中する。一方、テンセグリティは、どこか一点に力が加わると、ネットワーク全体に分散して受け止められる構造です。歩いたり、跳んだり、転んだりしたときの衝撃が、特定の関節に集中しないのは、この性質のおかげです。
2. 軽く、柔らかい
積み木は、堅く、硬く、変形しにくい。一方、テンセグリティは外力に応じてしなやかに変形し、形を取り戻します。だから人の身体は、走ったり屈んだり捻ったりできる。
3. 自分で再編成できる
さらに大切なのは、テンセグリティ構造は負荷に応じて張力配置を自分で組み直せること。日々の姿勢や動作のたびに、どの線をどれくらい張るか、身体は微妙に調整し続けています。Graham Scarrらはこれを「自己組織化する構造」と表現しました。
実は、この「自己組織化」は細胞のレベルでも見つかっています。細胞も、内部の張力と圧縮のバランスで形を保ち、外からの刺激に応答して再編成されている——という研究(Ingber, 2008)もあるんです。ミクロからマクロまで、身体は同じ原理で組み立てられているんですね。
では、不調はどう起きるか
バイオテンセグリティの視点から見ると、身体の不調は「どこかの骨が壊れた」よりも、「ネットワークの張力配置が崩れた」状態として理解できます。
たとえば:
- 一部の筋膜が硬くなる → 特定の線が常に強く引っ張られる
- 全体の張力が偏る → 本来浮かんでいるべき骨が、片側に引き寄せられる
- 結果として → 関節の隙間が均等に保てなくなる、特定の場所に負担が集まる
つまり、不調の本体は「張力ネットワークの偏り」にある。だからこそ、骨そのものや関節そのものをいじる前に、筋膜のネットワーク全体の張力配置を整えることが、根っこのケアになる——というのが、私が施術で大切にしている考え方です。
「浮かぶ」感覚を取り戻す
これまでこのブログで書いてきた『筋膜リリースとは何か?』『「腰をほぐしても、また戻ってくる」』『「筋膜=筋肉を包む膜」で止まっていませんか?』『頭痛・首こり・めまい』——どの記事の根っこにも、実はこのバイオテンセグリティの考え方が流れています。
「全体から、局所へ」「ネットワークの張力環境を整える」「直接ぶつからずに、変化を引き出す」——これらの方針は全部、身体を浮かぶ構造体として捉えているから出てくるアプローチです。
施術を受けてくださった方が、よくこんなふうに言ってくださいます。
「終わったあと、身体が一回り大きくなったみたい」
「ぐっと地面に足がついた、というより、ふわっと浮いてる感じ」
「上から糸で吊られてるみたいに、姿勢が楽」
これは比喩ではなく、まさにバイオテンセグリティ構造が本来の張力バランスを取り戻したときの感覚だと、私は思っています。
こんな方に
- 姿勢を「正そう」と頑張っても、すぐに戻ってしまう方
- マッサージや矯正で一時的に楽になっても、また同じ場所が辛くなる方
- 身体を「部品」ではなく「全体」として一度整え直したい方
初回カウンセリングは無料です。バイオテンセグリティの視点から、今のお身体の張力配置を一緒に見ていきましょう。