「歳をとって背中が丸くなってきたから、転ばないか心配で」——ご本人やご家族から、よく聞くお話です。高齢になると、背中の丸まり(過後弯)が気になり、転倒や骨折への不安も大きくなりますよね。

このシリーズの第2弾(姿勢が「寿命」にも関わる?)では、背中の丸まりと呼吸・寿命の関係を扱いました。今回はもう一歩、 「転倒」と「骨折」 に踏み込みます。

先に結論を言うと、 背中の丸まりと転倒・骨折のあいだには関連が報告されている。ただし、これも観察研究が中心で、読み方には慎重さが必要 です。そして、ここには "悪循環" という、見落とせない構造があります。

過後弯と「転倒」を調べた研究

背中の丸まり(過後弯)と転倒の関係を調べた代表的な研究が、アメリカの ランチョ・ベルナルド研究 です(Kado et al. 2007)。

1,883人の高齢者を対象に、背中の丸まりの程度と、転倒(特にケガを伴う転倒)の関係を調べました。すると、

  • 過後弯のある人は、高齢者全体の約3割
  • 転んだ人のうち過後弯だった割合は約36%、転ばなかった人では約30%
  • 分析の結果、 中等度の過後弯は、ケガを伴う転倒の独立した危険因子 になりうると報告された(特に高齢男性で目立った)

さらに、2025年に発表された 19の研究をまとめたシステマティックレビュー でも、 過後弯はバランスを損ない、転倒リスクを高める 傾向が示されています(Nezhad et al. 2025)。報告された転倒率は研究によって24〜64%と幅があり、無視できない数字です。

ただし、この総説は同時に 重要な但し書き を添えています。後弯の測り方が研究ごとにバラバラで、 結果に一貫しない部分があり、慎重な解釈が必要 だということ。「関連はありそうだが、すべての研究がきれいに一致しているわけではない」という、誠実な評価です。

なぜ背中が丸いと転びやすくなるのか——「前方重心」

ここには、理解しやすいメカニズムがあります。 重心(身体の重さの中心)の位置 です。

背中が前に丸まると、 頭や上半身の重さが、身体の支持軸より前に移動 します。つまり 重心が前寄りになる。すると、

  • 立っているときの身体の揺れ(姿勢動揺)が大きくなる
  • 足を広めに開いて立つようになる(不安定さを補おうとする)
  • 歩く速度が遅くなる

——こうした変化が重なり、 バランスを崩しやすく、転びやすい状態 になりやすい、と考えられています。過後弯は、 60歳以上の最大40% に見られるとも報告されており、高齢期にはとても身近なテーマです。

見落とせない"悪循環"——骨折と後弯

ここで、このテーマ特有の 悪循環 に触れておきます。

背中の丸まりと骨折は、 「どちらが原因でどちらが結果か」が一方向ではありません

  • 骨粗鬆症などで 背骨(椎体)がつぶれる骨折が起きると、背中が丸くなる(骨折 → 後弯)
  • 背中が丸まると 転びやすくなり、転倒でさらに骨折のリスクが上がる(後弯 → 転倒 → 骨折)
  • すると後弯がさらに進む……

つまり、 後弯は「転倒・骨折の原因」であると同時に、「骨折の結果」でもある。この双方向の関係が、 悪循環として進みうる ところに、このテーマの難しさと大切さがあります。

だからこそ、 「背中の丸まり」を単なる見た目の問題として放置せず、全身の状態を映すサインとして読む ことに意味があります。

ここでも「相関と因果」は分けて考える

毎回お伝えしている注意点を、ここでも。

転倒・骨折と後弯を調べた研究は、 観察研究が中心 です。後弯の測り方も研究ごとに違い、 バランスとの関連は、報告によって結果が分かれています(関連ありとするものも、なしとするものもある)。

ですから、 「背中を伸ばせば絶対に転ばなくなる」という単純な話にはなりません。転倒は、

  • 姿勢(前方重心)
  • 筋力・バランス能力
  • 視力・めまい・内耳(前庭)の機能
  • 服薬・神経の状態・住環境

—— いくつもの要因が重なって起きる、多因子性の出来事 です。後弯は関わる要因のひとつ。重要だけれど、決め手ではありません。

安全のために知っておいてほしいこと

ここは出し惜しみせずに。

背中の丸まりが進んでいる高齢の方、過去に転倒・骨折のある方、身長が縮んできた方 は、 骨粗鬆症のスクリーニング(骨密度の検査)を、医療機関で受けておく ことを強くおすすめします。背中の丸まりの背景に、 気づかれていない椎体骨折(いつのまにか骨折) が隠れていることがあるためです。

もうひとつ大切な注意があります。 骨粗鬆症がある場合、背骨を強く前に曲げる動き(強い前屈・腹筋運動のような屈曲負荷)は、椎体骨折のリスクを高める ことが知られています。 「姿勢を治そう」と自己流で強い体操をすることが、かえって危険になりうる のです。運動を始める前に、まず医療機関で骨の状態を確認してください。

転倒予防は、姿勢だけでなく、 筋力・バランス練習・視力・足元の環境・服薬の見直し など、多角的に取り組むのが基本です。

私たちの徒手アプローチの立ち位置

そのうえで、私たちのような徒手アプローチがどこに関われるか。

私たちがしているのは、 「丸まった背中をまっすぐに矯正して転倒を防ぐ」ことではありません。そんな単純なことでも、約束できることでもない。

私たちが関わるのは、もっと手前の 身体の条件 です。

  • 胸郭・背部まわりの筋膜の緊張をゆるめ、背骨や肋骨が動きやすい余地をつくる
  • 呼吸や体幹の支えを整え、重心を支えやすい状態へ近づける
  • 一部に丸まりの負担が偏らないよう、全身の連結を整える

これは「矯正」ではなく、 「身体が、より楽に支え、より楽に動ける条件を取り戻す」 という関わり方です。そして、転倒予防という大きなテーマでは、 医療機関での骨の評価や、運動・リハビリと併せて 取り組むのが現実的だと考えています。

姿勢・呼吸・自律神経のつながりについては、別のシリーズでも扱っています。

関連シリーズ:『「自律神経が弱っている」と言われたら——副交感神経は壊れていない、「働く機会」が減っているだけ』ほか、「自律神経と身体のつながり」シリーズで詳しく。

まとめ

「歳をとって背中が丸くなると転びやすい」というよく聞く話は、 研究でも関連が報告されている ものです。ただし、正確に理解することが大切です。

  • 過後弯は、高齢者の ケガを伴う転倒の独立した危険因子 になりうる(Kado et al. 2007)
  • 過後弯は バランスを損ない、転倒リスクを高める 傾向(Nezhad et al. 2025)。ただし測定法のばらつきで 結果は一貫しない部分もある
  • メカニズムは 前方重心——重心が前に出て姿勢が不安定になりやすい
  • 後弯は 「骨折の結果」でも「転倒・骨折の原因」でもあり、悪循環 になりうる
  • 背中の丸まりが進む・身長が縮む・骨折歴がある方は、骨密度の検査を。骨粗鬆症がある場合、強い前屈運動は逆に危険 なことも

「背中を伸ばせば転ばない」と単純化せず、 姿勢を全身のサインとして読み、医療・運動と併せて多角的に整えていく 。その積み重ねが、転倒・骨折と誠実に向き合っていく現実的な道筋だと、私は考えています。


「背中の丸まりが気になってきた」「ご家族の姿勢や転倒が心配」「呼吸や姿勢を含めて全身を整えたい」——こうした方には、千葉のスタジオ Rolf Concept でご提供している Structural Integration(S.I) をご検討ください。アイダ・ロルフ博士が考案した、全10回で身体の構造的なバランスを根本から整えていく体系的なプログラムです。背中・胸郭・体幹を含めた全身の連結から、無理なく支えられる身体の条件を整えていきます(骨粗鬆症など既往のある方は、医療機関での評価とあわせてご相談ください)。

→ Structural Integration(10セッションで身体を根本から変える)


参考文献

  • Kado DM, Huang MH, Nguyen CB, Barrett-Connor E, Greendale GA. Hyperkyphotic posture and risk of injurious falls in older persons: the Rancho Bernardo Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2007;62(6):652-657.
  • Gasavi Nezhad Z, Gard SA, Arazpour M. The effects of hyperkyphosis on balance and fall risk in older adults: a systematic review. Gait Posture. 2025;118:154-167.