「膝が痛い」という訴えは、とても多い。

変形性膝関節症(膝 OA)は40歳以上の成人のおよそ16〜23%に認められるとされており、55歳を超えるとさらに有病率は上がります。腰痛とならぶ代表的な慢性的な運動器の問題のひとつです。

その原因としては、加齢・体重・過去の外傷・遺伝などがよく知られています。けれど、「姿勢」や「身体のアライメント(骨格の並び)」が膝の状態に関わりうるという視点は、あまり表に出てきません。

このシリーズで繰り返してきたように、姿勢はさまざまな身体の問題と「相関」します。膝の痛みも例外ではありません。


変形性膝関節症とは

変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨の変形や炎症が進む状態です。痛み・こわばり・可動域の低下が主な症状で、進行すると日常の歩行にも支障をきたします。

注目すべきは、軟骨がすり減る速度が人によって大きく異なること。同じ年齢・同じ体重でも、関節への力のかかり方(メカニカルローディング)の違いが、進行速度に影響を与えると考えられています。


膝のアライメントと OA 進行

2009年にTanamas らが発表したシステマティックレビューでは、膝関節のアライメント(O脚・X脚)と膝 OA の発症・進行リスクの関連をまとめています。

  • O脚(内反変形、varus malalignment):膝の内側への荷重が増大し、内側の関節軟骨の摩耗が進みやすい
  • X脚(外反変形、valgus malalignment):外側の荷重が増大し、外側の関節軟骨への負担が集中する

要するに、膝が「まっすぐ」でなく偏った方向に荷重がかかり続けることが、OA の進行を加速しうるという視点です。

さらに Sharma ら(2001)は、O脚の方は歩行中に「バラス・スラスト(varus thrust)」と呼ばれる動的な動きが出やすいことを報告しています。荷重時に膝が外側に揺れる(より O脚方向に動く)ことで、内側の軟骨摩耗を特に加速させる因子になりうるとされています。


姿勢が膝のアライメントを変える:キネティックチェーンの視点

では、膝アライメントと「全身の姿勢」はどうつながるのか。

ここで重要なのがキネティックチェーン(運動連鎖)という考え方です。膝は孤立した関節ではなく、足→膝→股関節→骨盤→脊椎という連続した「力の連鎖」の中にあります。

たとえば——

骨盤の前傾と膝の関係

骨盤が前傾する(腰が反る)と、大腿骨が相対的に前方に引っ張られ、膝関節への荷重分布が変化します。腰椎前弯が強い姿勢では、膝関節の前面(膝蓋大腿関節)への圧が増す傾向があることも報告されています。

足部の回内と膝

扁平足や足部の過回内(かかとが内側に倒れる状態)があると、脛骨が内旋し、膝に外反(X脚方向)のモーメントが加わりやすくなります。「足元のことなのに膝に影響する」という例の一つです。

股関節の外転筋力と膝

股関節まわりの筋力(特に中殿筋などの外転筋)が低下していると、歩行中に骨盤が左右に流れやすくなり(トレンデレンブルグ徴候)、膝への内外反のモーメントが増加します。これも姿勢・体幹の問題が膝の力学的な環境を変える一例です。


若い人にも起こる:膝蓋大腿関節の痛み

膝の痛みは、高齢者のOAだけではありません。

若い年代に多い膝蓋大腿関節痛(PFP:Patellofemoral Pain)——いわゆる「膝のお皿まわりの痛み」——も、姿勢・アライメントとの関連が指摘されています。

Q角(大腿骨の方向と膝蓋靭帯の方向のなす角度)が大きいと、膝のお皿(膝蓋骨)が外側に引っ張られる力が増大し、膝蓋大腿関節の接触圧が上がります。このQ角には骨盤の幅・大腿骨の向き・脛骨の捻れ(ねじれ)などが関与しており、体型や姿勢の影響を受ける値です。

PFP は走るスポーツ選手や若い女性に多く、「膝だけを見ていても改善しにくい」ケースがしばしばあります。


膝の痛みが姿勢を変える:逆方向の影響

このシリーズで繰り返してきたように、影響は一方向ではありません。

膝が痛いと、人は無意識に「痛くない歩き方」を選びます。患側への荷重を減らす、歩幅を小さくする、体を傾けるなど。こうした代償的な姿勢・動作が続くと、膝以外の関節(股関節・腰・足首)への負担が増し、新たな問題が生じることもあります。

痛み→代償的な姿勢→別の部位への負担増→さらなる問題——という悪循環が成立しうる。膝の痛みは、膝だけの話では完結しないことがある、というわけです。


大切な視点:多因子の状態として捉える

「姿勢が悪いから膝が痛くなる」という話をしているわけではありません。

変形性膝関節症は、年齢・体重・外傷歴・遺伝・筋力・骨密度・メタボリックシンドロームなど、多くの要因が重なって生じる状態です。アライメント・姿勢は、その「一因として関与しうる」という位置づけです。

また、膝に強い痛みがある・急に腫れた・体重をかけられないなどの症状がある場合は、整形外科での診察が最優先です。アライメントや全身の状態を見直すアプローチは、そのうえで検討するものです。


まとめ

  • O脚・X脚などの膝アライメントのずれは、膝 OA の進行を加速させうる(Tanamas et al. 2009)
  • 膝は骨盤・股関節・足部と連動した「運動連鎖」の中にあり、全身の姿勢が膝の力学的環境に影響する
  • 骨盤前傾・足部の過回内・股関節外転筋の低下などが、膝への負担を変える要因になりうる
  • 若い世代の膝蓋大腿関節痛(PFP)も、アライメントや姿勢と関連が指摘されている
  • 膝の痛みは代償的な姿勢変化を生み、他の部位への負担増につながる悪循環がある
  • ただし、変形性膝関節症は多因子の状態。姿勢は「一因」であり、強い症状は整形外科での診察を優先する

膝の痛みには、膝だけでなく「膝がどんな環境の中にあるか」という視点がある。足元から骨盤まで含めた全体のバランスを見ていくことで、見えてくるものがあるかもしれません。


膝まわりの問題と同時に、姿勢全体のバランスが気になっている方には、千葉のスタジオ Rolf Concept でご提供している Structural Integration(S.I) をご検討ください。変形性膝関節症そのものの治療は整形外科の領域ですが、全身の姿勢バランス・骨盤アライメント・運動連鎖の観点から身体を整えるお手伝いができることがあります。

→ Structural Integration(10セッションで身体を根本から整える)


参考文献

  • Tanamas S, Hanna FS, Bell RJ, Wluka AE, Davis S, Cicuttini FM. (2009). Does knee malalignment increase the risk of development and progression of knee osteoarthritis? A systematic review. Arthritis Care & Research, 61(4), 459–467.
  • Sharma L, Song J, Felson DT, Cahue S, Shamiyeh E, Dunlop DD. (2001). The role of knee alignment in disease progression and functional decline in knee osteoarthritis. JAMA, 286(2), 188–195.
  • Powers CM. (2010). The influence of abnormal hip mechanics on knee injury: a biomechanical perspective. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 40(2), 42–51.